第10回生産宣言者インタビュー(なかせ農園)
「なかせ農園」ジュニア野菜ソムリエ・食育指導士 中瀬 靖幸さん
自然の持つ力を最大限に発揮させるさつまいも作り
菊池郡大津町で、阿蘇の山々の恩恵を受けながらさつまいもを作り続ける「なかせ農園」。約30年前、靖幸さんの父親がミネラル豊富な火山灰土壌を持つこの地でスタートさせました。試行錯誤を繰り返しながら、農薬や化学肥料の使用を最小限に抑え、良質な完熟堆肥を豊富に使う農法を確立。また、収穫後に徹底した温室管理で熟成貯蔵させた甘みの強いさつまいもだけを出荷しています。99年に「認定農業者」、2003年に「エコファーマー」、さらに2014年には「六次産業推進事業計画」認定を受け、現在は生産だけでなく加工販売にも力を入れています。今回は、3年ほど前から就農して一緒にさつまいもを作っている長男の靖幸さんにお話を伺いました。
震災をきっかけに見直したさつまいもの価値
就農するまでは東京の出版社に勤めていた靖幸さん。4年前に東京で震災を経験したことで、熊本に戻って家を継ごうと決意したそうです。「食料が不足し、改めて食の大切さを実感しました。そのときにうちが作っている、ともすれば非常食にもなるさつまいもに、改めて価値を見出したのです。」高校や大学で農業を学んだ経験がなかった靖幸さんは、就農してすぐは、父親が使う専門用語の意味が分からなくて意思疎通がうまくできなかったそうです。「その頃はケンカが絶えなかったですね。でも、一緒に仕事をするうちに父のこだわりが見えるようになってきました。これまで両親が続けてきた美味しいさつまいもを届けたいという想いを継承するために、美味しさの伝え方も重要視しながら作っています。」なかせ農園では、需要の多い「紅はるか」を「蔵出しベニーモ」としてブランド化させて販売しています。
生産者と消費者との懸け橋になるくまもとグリーン農業
靖幸さんがくまもとグリーン農業の生産宣言をしたきっかけは、イベントで消費者から生の声を聴いたことだそうです。「東京で震災を経験した小さなお子様をもつお母さんたちが、安心で安全なものを探している光景を目の当たりにしました。熊本には安全で美味しいものがたくさんあることが当たり前だと思っていましたが、その方たちから見れば、とても貴重な食材であふれているのです。」安全で美味しいものを求める人たちに、自分たちの農産物を手に取ってもらえるのではないかと考え、生産宣言をすることにしたそうです。
現在も、マルシェなどで消費者に直接伝えたり、農園のリーフレットに生産へのこだわりを盛り込んだりするなど、安全性のアピールに力を入れている靖幸さん。「出版社時代、たくさん並ぶ本の中から自分が勧めたい1冊を手に取ってもらうには、内容だけではなく、表紙のデザインやポップの書き方も重要だと学びました。農産物にも同じことが言えます。見た目では美味しさの違いが簡単には分かりません。手に取ってもらうには、パッケージやリーフレットなどで美味しさを伝えることも大切だと考えています。」
美味しくて安全なさつまいもで作るオリジナルデザート
靖幸さんは、安全性の伝え方にこだわる一方で、加工品の販売にも力を入れています。最近では、朝昼晩で食べ分けられる3種の「芋女のためのアイスクリーム」や、紅はるかを焼き上げた後すぐに冷凍させる「冷し焼きいも」など、オリジナル性に富んだ商品を次々に開発しています。また、自園だけに留まらず、熊本の農家と菓子職人によるコラボプロジェクト「農菓子」にも参加して、活動の幅を広げています。農家は「自ら生産した農産物をたくさんの人に届けたい」という想いで、菓子職人は「地元の農産物を使ってお菓子を作りたい」という想いで始まったこのプロジェクト。これからの農業の新たな可能性が期待できそうです。